子供を診る歯科医は
どうにかして上手く治療をせねばならない。
そこで、私はアンパンマンをたとえ話として活用する。
なんせ、想像力たくましい子供たち!
すぐにアンパンマンの世界の中に入り込んでしまう。
アンパンマンにとり、バイキンマンは許せない存在。
バイキンマンが口にいると聞いたら子供は意識を突如変えてしまう。
口の中の細菌は 歯科医にとって許せないバイキンマンなのだから。
私は歯科医の仕事をしている。
歯科治療は細かく大変だ。
そして、患者さんが子供の場合はなお一層大変だ。
子供は治療を邪魔する因子を多く持っているからだ。
まず、子供は怖がり泣き叫ぶ。
また、機械や器具を口の中に入れさせてくれない。
そして、唾液の出る量が大変多い。
だから治療がうまくできなくなる傾向にあるのだ。
時に子供の患者は歯科医の指にかみついたりする。
私はそれに辟易し、時に子供の治療はやめたいと思ったことがあった。
また、いくら説明しても聞き分けがない。怖くてならないと、決めつけてしまうのだ。
これにはどうしたらいいものか、年中私は頭を悩ませていた。
そしてある時思いついたのが、アンパンマン大作戦!
これは子供の患者さんには特によいだろう。
なぜならば、子供たちはすべてものをヒーローものに例えると物凄く喜ぶからだ。
子供たちは治療を受けていることを一時的に忘れてくれる。
私は、子供の気をそらすためすべての器具などを例えることにした。
まず、エアタービン。これはキーンという、高速で虫歯などの歯を削合するものであるが
ムシバイキンをやっつける正義の飛行機と言う。
たくさん一度に歯をけずったらいけない、神経に近い場所などを慎重に削合するときは
エンジンという低速の機械を使用。かなり響く機械であるが
ゴリゴリさんでバイキンマンがいるところをほじかえそうかと言う。
「アンパンマンになれたらいいね、今は先生がバイキンマンをやっつけてあげるから
頑張ろうよ。」
というとたいていの子は頑張ってくれる。
これぞ、アンパンマン大作戦!
子供にとりアンパンマンは真なるヒーローなのだなあ、と痛感する。
そして、バイキンマンをことごとく退治しようか、と強調しさらに進んだ治療に誘導するのだ。
ところで、歯科医は治療中にバキュームという吸引器具を使う。
これは唾液や水などを吸い込む機械だ。
唾液や水は歯に何か処置をするときの接着を阻害する。
口のなかで使用するボンドのようなものがあるが、いわゆる接着剤の代わりのものである。これを使用中に水や唾液が歯につくと虫歯をとりのぞいたあとにつけるものがくっつかなくなってしまう。
つけたものが外れたら患者さんは痛いし、また申し訳ない。
おまけに歯科医としての信用にもかかわる。水分は明らかに歯科治療の敵。
そこで、私も子供に新しい提案をしてみた。
「お水さんがはいるとまたまたバイキンマンとったところがはがれちゃうの。
そこにまたバイキンマンがくるかもしれないの。
先生も戦う!よし、アンパンマン先生は悪いやつを退治するからね。まず、バキュームという掃除機さんをまた、たくさん使うね」ときちんと説明する。
すると子供はすんなりとラジャー!という態度になる。
そして、私は治療中の歯に水気がはいるのを防ぐことに燃えてしまう!
これぞ、完璧なチームワーク。
完全にわたしの気持ちもアンパンマンの世界の中だ。
また、私はたまにバキュームを子供に持たせてしまうこともある。
何でも手に取り確認したい子供には魅力極まりないものになる。バキュームが物を吸い込むのをみた瞬間子供はどんなに目を輝かせたことだろう。
「同じ様にやってみようか、お口の中でね。バイキンマンを吸い取るために頑張れちゃうかなあ、出来るよね?」と言うとすんなり治療開始がスムーズになるのだ。
このように子供をみる歯科医にとり
アンパンマンのたとえ話がどんなに役立つことか。
私はどんなにアンパンマンの存在に感謝したことだろう。
ただどうしようもならない時もあった。そんな時は別の効果に頼る!お母さんの存在だ。お母さんを近くに置く。そして
「お母さんが見ているよ。かっこいい、かっこいいって。」
と思い切りほめてあげる。
子供は承認欲求を満たされて大満足。さらにお兄ちゃんになったねとつけ加えたらもう大変。時に体をくねらせ飛び上がり喜ぶ子もいて、治療のための器具を持っているかなり危険な状態の私は困惑してしまうこともある。
さらに、別に私は困惑してしまうことがある。
それは治療が完璧にできた時。私は感動して泣いてしまうことがあるのだ。
その時にとっさに出た私の言い訳。
「バイキンマンがしんじゃったから、なんか可哀想で!」と私。すると、
「泣いちゃ恥ずかしいよ、先生」
と逆に子供のほうが冷静沈着。立場逆転だ。
私は明日もアンパンマンのマントの代わりの白衣をまとい
新鮮な気持ちで
アンパンマンでいう新しい顔になり
初心を忘れずに歯科治療する。